誰かに自分を投影することは…


誰かに自分を投影することはとても危険なことだ。よくある親子間の悲劇はこうしたものから起こることが多いように思う。子どもをどうにかしようとする親が、子どもに介入する。介入された子どもはそれに応えるように頑張る。それが続けば、子どもは極端に人の意見を聞かなくなったり、極端に人の意見しか聞かなくなったりする。どちらの場合も他人の意見に左右されてしまい、自分で考える能力が奪われてしまう。

僕は自分がそうした環境で育ったせいか、人にアドバイスをしがちになってしまう自分がいることを知っている。カウンセリングをするということはそういう自分との戦いだった。クライアントに反応して、なかなか進まない話に苛々したり、答えが目前にあるのに気づかないのを見て、それを伝えようとしたりしてしまっていた。今でもそうしてしまうことはあるかもしれない。カウンセリングは…というよりも、他人と会話をすることは、目の前の人間に自分を投影してしまうという誰もが持っている性質との葛藤でもある。

ルソー君と渋谷のクラブに行った。十時半頃に入るとハッピーアワーで千円で入れた。それで千円分のドリンクと引き換えられるコインももらえる。入場料がただ同然だったのでびっくりした。スタッフたちは皆ぶっきらぼうに上から接してくる。虚勢を張るとはこのことかというような。もし僕が初めてクラブに来たとしたら、この時点でかなり緊張してしまっただろう。

地下三階には、二十代後半のスーツ姿の男性がほとんど。それなりにオシャレな若者が少し、大学生っぽいパッとしない若者が少しという感じだった。女性はほとんどいなかった。壁沿いにある浅いソファに座ってルソー君とウーロン茶を飲んだ。彼はあまり話さない。どうやらツイッターを見ているようだった。小さく鋭く回転する歯車が彼の中で、彼のコントロール下にないところで、ショートしそうなほど回転しているように思われた。特に人前では、まだその回転は止められることが少ないようだった。男性ばかりのフロアをぼんやりと見ていると、隣のスーツ姿の男性が声をかけてきた。
「一人で来てんの?」
「いえ、友だちと来ました。」
「よく来んの?」
「初めて来ました。渋谷のクラブはあまり行ったことがなくて…。ナンパですか?」
「君、はっきり聞くねw まぁそうだよ。」
ナンパ前のウォーミングアップに僕を使おうと思ったのだろう。彼のナンパは恐らく同じような流れで女の子にされるはずだ。成果は少ないだろう。ぼんやりしている僕にタメ口で、強い口調で話しかけてくる時点で同性さえちゃんと見れていない。一人で来て、とても緊張しているのだろう。
「どうですか?ナンパは上手くいってますか?」
「あぁ、持ち帰りはないけど、ベロチューくらいかな。」
「そうですか。」
「君は?」
「僕は百回くらいはそのまま持ち帰ってセックスしています。」
「…。」
百回は嘘である。ちょっとびっくりした顔が見たくて、いじわるをしてみた。彼はいなくなった。

うるさくて話し辛いので、地下二階に行った。地下二階は穏やかな音楽が流れていて、踊っている人もいなかった。また浅いソファに座って、ルソー君と色々話をした。最近あったこと、ルサンチマンについてなど。彼と話していると緊張する。彼は人に投影をさせ易い。僕の中からアドバイスをしたいという気持ちが湧いてくる。それを抑えて、話をする。いつでも、アドバイスをしている人間は、されている人間に依存をしているのだ。他人にするアドバイスは、他人を前にして自分自身に対して言い聞かせているに過ぎない。だから、彼には特に、僕自身の話をすること、彼の話について興味を持ったところに質問をすることに留めるように心がけている。そうすると、また彼の中で歯車がまわり始めるのを感じる。彼が落ち着いて、話を聞いているときは、その歯車は穏やかに彼のコントロール下でまわっているように感じられた。会話がスムーズに流れていた。

十二時を過ぎたので、地下三階に戻った。彼と踊っている人たちを後ろから眺めていた。
「皆、リア充に見える?」
「はい…。」
「よく見て。音楽と身体が合っている人は少ないというか、殆どいないよ。」
自信がないと観察力は極端に下がり、目の前の現実が歪んでしまう。フロアでは皆が踊っている。だけど、お立ち台にいる女の子でさえも音楽と身体のリズムが合っていなかったりする。空間に自分が入り込んでいないのだ。そのリズムのズレを見るのがクラブナンパでは重要だ。そのズレが、その人の慣れてなさやその場での自信のなさ、緊張して意識が外を向いていることを表している。一人、動きの少ない女の子がフロアにいた。全体のリズムを目で捉えると、誰に話しかけたら良いかがなんとなく分かる。ルソー君に声をかけるように伝えた。
彼が女の子に近づいていく。声をかけると、女の子は反応して話をしていた。それを見て、我が子を見守るようにほっとした…が、それもつかの間、彼が話をやめて隣で棒立ちになっている…。こういう状況をその後も何度か見た。クラブの女の子は興味がなかったら話してもくれないことが多い。彼は人の興味を惹くような雰囲気を持っている。だけど、彼自身が話さないから、女の子も戸惑っているように思った。彼自身は必死だったかもしれないが、棒立ちをしている彼の姿が可愛かった。

その後、僕も少し酔っ払ってしまい、当初のルソー君を見守るという目的を忘れて、一人で好きなようにナンパした。クラブ慣れをしていない若い人が多いからか、やり易いかもしれない。男性も七割くらいは地蔵であったように思う。久しぶりのクラブだったけど、やはりクラブでは服装いじりとネグから入ると会話がし易かった。

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