想像力を使って他人の話を聞くこと/『山上敏子の行動療法講義』


人からカウンセリングのやり方を教えて欲しいと言われることが多くなってきた。僕は大学で心理学を勉強したわけではない。カウンセラーの先生のもとで、お茶汲み、雑用をしたりしながら、先生の振る舞いを見ながら覚えた。ときどきアドバイスをもらえるけど、それこそ神託レベルの有り難さで滅多にしてもらえなかった。今だったら、それがどうしてかは分かる。その人が受け取れるときでなければ、何を言っても無駄なのだ。

その後はスカウトやナンパをしながら、色々なカウンセリングのテクニックを試し続けた。結局、こういうものは実際にやってしか覚えられないものだ。いくら勉強しても、知っているのと使えるのとは全く違う。その反対に、いくら人と接する機会が多かったとしても、どういう部分に意識を向ければいいのかを知らなければ延々と同じことをしてしまって学ぶものが少なくなってしまう。

この『山上敏子の行動療法講義』は臨床と研究を重ねてきた行動療法の大家が行動療法とは何か、他人の話を聞くとは何かということを平易に語っている講義を文字におこしたものである。一般的に書かれたテクニック集というようなものではなく、カウンセリングの技術を磨き続けた人がテクニックと、そのテクニックを使う際の繊細な心構えについて語っている、とても参考になるものだった。読むのに想像力はいるけれども、事前の専門的な知識は必要とされていない、読み易い本である。

カウンセリングのテクニックというと、一般的によく言われるのが傾聴だと思う。
相手の話を聞く。聞いて、オウム返しにする。

「彼女と別れて、辛いんです。」
「そう…辛いのね。」

これは確かに有効だが、能力のある人がするのと、ない人がするのとでは同じ言葉を返しても全く違う。そこを隔てているものが他人に対する想像力だろう。その想像力とは何かということを、著者の山上敏子さんはこの本の中で様々な形で教えてくれている。

“よく「クライエントに共感する」と言うでしょう。それは、その通りです。でも、共感するにはわかることが必要です。ときどきこれが抜けていて共感がうたわれていることがあります。わからなかったら、共感なんてないですね。クライエントのことがよくわかって、そしてはじめて「それはつらいだろう。大変だろう」という気持ちになります。そういう気持ちがクライエントにも伝わるわけですね。わかるというところを抜きにして、「ああ、それは大変ですね」と不自然に言葉を使うと、クライエントの心はすーっと逃げてしまいますね。
治療で一番大切なことは、治療をする自分がまずわかろうとすることです。どのようになっているのか、クライエントの身になってわかろうとする。これは、難しいけれど訓練しなければならない大切なことです。そのために、「何をどう考えているのだろう、どのように感じているんだろう、周りの人はそれをどう思っているのだろう……」というように、素直にわかろうとすることです。…具体的にクライエントはそこで何をどのように体験しているのかと探しながら、面接を進めていくのです。体験されているところを素直にとっていると自然に、「それはしんどいことだ」のような感想が湧いてくるものです。”

行動療法は心理療法の一つである。
人の行動に対して焦点を当てる。動作はもちろん、思ったり、考えたりすることも行動として扱っている。そうして、人がどんなことを考えて、どんなことをしているのか、目の前にいる人の動きを細かく見る方法である。そうして見つけた行動の中の問題や変化させられるところを見つけて、その人の困っていることを解消するという手法である。
先の引用のように、「こうすればいい」というような短絡的なことは全く書かれておらず、「こういう部分に意識を向ければ、もっと人を見る能力が養われる」ということが書かれ続けている。より誠実に他人に向き合うためにはどうすればいいのかということを教えてくれる本だった。

前回紹介した『自傷行為の理解と援助』もそうだけど、こうした本にはその辺のコミュニケーションに関する自己啓発本よりも余程深い洞察のもとに観察されてきた人間のことが書かれている。その一方でこうした本が一般の人の手にとられることは少ないのはとても残念なことに思うので紹介してみました。この本も浅井さんに教えて頂きました。

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