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催眠の習得の仕方1/催眠術、ミルトン・エリクソン、意識の繊細な集中、身体感覚について

 催眠がうまくなるためにどうすれば良いかということをよく講座やask.fmで質問してもらうので、ここにまとめておきます。僕がやってきたやり方でしかないので、参考程度にしてみてください。他にも有効な学び方はあると思います。

 まずは僕がどう学んだかというところから…。この記事自体は結構長くなるはずなので、興味がある人しか読まないと思って書きます。

 僕はもともとうつやパニック障害、社会不安障害などを患っていました。五年ほど色々な病院やカウンセリングを受けていましたが、薬漬けで一向に良くならなかったところ、催眠療法を使うカウンセラーのカウンセリングを受けて良くなったのがきっかけで、催眠療法に興味を持ちました。
 他のカウンセラーがどうにもできないものをどうにかした、この魔法みたいなものはなんだろうという興味です。これに関しては、誤解のないようにお伝えしますが、催眠療法という方法が優れているというのではなく、カウンセラーの観察力や技術が優れていたのだということには後々気づくことになります。しかし、カウンセリングのことを知らない人間としては、そのカウンセラーの技術に関心が向くのは自然なことでしょう。そのような形で、僕は催眠に関心を抱きました。

 質の高い催眠を使える人はカウンセリングも、自己啓発的な洗脳も、両方行うことができます。はじめはその区別もつかないまま、ただただこれは凄いとのめり込んでいきました。それらにはちょっとした違いしかないと同時に、大きな違いがあります。調味料を入れ過ぎた方が美味しいと思う人が多くなる料理みたいなものです。

 とはいえ、そんな堅苦しい話をしはじめても、催眠に興味を持った人の興味を削ぐだけになってしまうかもしれません。実践的な話に移ります。

 まず初めて催眠術や催眠療法を見た人が関心を持つのは、言葉がけだけで人が言葉通りになったりすることでしょう。催眠はときに人の支配欲求をくすぐります。本人にとっては支配欲求ではなく、人のための善意だと思っていることも多いでしょう。「たくさんの女性を幸せにしてあげたい」と言ってエロ催眠をかけるエロ催眠術師などはその典型です。そのような興味の持ち方を僕は否定しません。僕自身にもそのような部分が確実にあるからです。しかし、技術を習得して、熟達していくにつれて、そのような欲求が、技術の質の向上の妨げになることに気づき始めます。そのときに、自分の欲求に向き合うことになるでしょう。

 さて、その言葉がけによって変化が起こることについてですが、一先ずたくさん、色々な人にかけてみるのが良いでしょう。催眠術なら動画を検索するか、催眠AVを見るのが一番良いと思います。
 高いお金を払って講習会などに行くことはお勧めしません。オーソドックスな催眠術であれば、「見た通りにやってみたらかかった」という程度のものなので、数をやって、かかりやすい人にかけて自信を得るのが近道です。
 お勧めの催眠AVは『狂乱催眠』というものなんですが、あまり売っていないかもしれません。
 エグいですし、気分が悪くなりますが、僕が見た中では、見た目の派手さや世間が求める催眠術のイメージに合っているという点において、最も優れているものだと思います。見るときは覚悟して見てください。技術としてはかなり高度なものですが、ここを目指すと精神的に危うくなると思います。あるいは、そのように選ばれた人しかできないものかもしれませんが。

 実際のところ、僕は催眠術はあまり好きではありません。できればかけたくないし、教えたくもありません。その一方で、催眠術をある程度できるようになってみて催眠療法のコツを掴んだということもあり、これを否定することができない部分もあります。昔から今に至るまで、ショー催眠術はアカデミックな催眠研究の中であまり良いようには言われていません。実際に、ショー催眠術が催眠に関する誤った認識を世間に広げています。
 しかし、ダメと言われれば気になるのも人間の性です。催眠についての理解を深めるために、ある程度はショー催眠術ができるようになることも必要なのではないかと思っています。やればやるほどやりたくなくなるときがくるでしょう。
 この松岡圭祐のエッセイが真実を伝えている良い文章なので読んでみてください。

 一方代々木忠監督のAVは催眠療法の要素の濃いものです。語り口調や雰囲気など、エリクソンのように暗示的なので非常に参考になると思います。

 催眠療法ならエリクソンの動画があるので、まずはこれを見て、雰囲気を掴むことが大事です。何をしているかわからなくて構いません。なんだこれはという程度で良いので見ましょう。

エリクソンの催眠に導入する会話と腕浮揚
https://www.youtube.com/watch?v=hcekwIoEvKA

エリクソンの話し方がよく分かる動画
https://www.youtube.com/watch?v=_L9d0BNqgL4
https://www.youtube.com/watch?v=5A4ow3F6K7U

 エリクソンの行っていることについては『ミルトンエリクソンの催眠療法入門』がわかりやすくその手法を説明してくれています。少し高いですが、これはまず読んだ方がいいです。あわせて、後に紹介する『ミルトン・エリクソン その生涯と治療技法』も必読です。他のエリクソン関連の本はなかなか難しいので、この二冊から始めることをお勧めします。この二冊なら『ミルトン・エリクソン その生涯と治療技法』を先に読む方が分かりやすいかもしれません。

 催眠の技術において大切なものは大きく分けると三つあると僕は思っています。
 観察力、身体的な感受性、言葉に対する感受性の三つです。
 観察力は、身体と言葉の感受性に従って向上していきます。

 まずは身体的な感受性について。
 少し長いですが、この引用を読んでみてください。エリクソンが小児麻痺にかかり、次第に身体感覚を取り戻す過程が描かれています。ここで観念運動と言われているものを誘導の型にしたのが腕浮揚でしょう。意識的には動かせない状態であるからこそ、身体感覚への繊細な意識の集中によって動かす術を獲得したのだろうと思います。
 普通に動かせる人は動かせてしまうだけにこの繊細な意識の集中を体験することが難しいです。僕の場合は気功や平均化訓練などによってその感受性を磨いています。

“ 17歳のときエリクソンは、ポリオ(小児麻痺)に襲われ、聴力、視力そして眼球運動だけが残された。話すことには大変な困難がとまない、他の運動能力はほとんど奪われた。発症したその日、医者が母に息子は翌朝までもたないであろうと話しているのを、彼はふと耳にした。母にそのようなむごい知らせを言う鈍感さに憤怒したことが、彼の生への粘り強い欲求のエネルギー源となった。彼は夕日を見ることを目標にし、母にドレッサーの位置を朝して、その鏡でドア越しに西側に面した窓から外が見えるようにして欲しいと頼んだ。夕日を見たいという欲求があまりに強かったので、彼は自己催眠を体験したと述べている。鮮烈な夕日だけを見た、視界をさえぎる木もフェンスも丸石も見えなかった、と。日が沈むと、彼は深い眠りに入り、それは三日間続いた。そのあとには回復過程があったが、ねばり強さと意志の力だけではなく、優れた観察力といくばくかの幸運もまた必要であった。回復したということ自体が奇跡的であると思う。というのも1919年のウィスコンシンの田舎で近代的な医療はまったくなかったのだから。
 ある日、思いがけないことが起こった。エリクソンが、部屋の真ん中で麻痺した彼のために考案された便器兼用のロッキングチェアーにたまたま置き去りにされたときのことだった。座り続けていると麻痺してきて、椅子が農場の見える窓の近くにあったらと願っていると、椅子がほんのわずかに揺れはじめたのだ。エリクソンはすぐに気づき、願望が何らかのかたちで微細な筋肉インパルスへと翻訳されたのだと結論づけた。彼の麻痺した身体が結局のところ動きを生み出すことができたということがわかったときにはきっととても感銘したにちがいない!彼の次の課題は、不可能なこと(動かし得ないものを動かしたこと)を達成することから、可能なこと(わずかな動き)を拡大していくことへと変わった。このやり方は、彼がのちに治療者としておこなった、ある能力に焦点を当て少しずつ増加させるというやり方に通じていると思われる。もし便器椅子が4本足の椅子から作られていたなら、もしエリクソンに鋭い観察力がなかったなら、彼の回復はあれほど早くはなかったであろう。また無意識によって生み出されたこれらのわずかな動きは、のちにエリクソンによって、無意識が行動の変化に影響を与える観念運動反応の実例として理解されたということも付記しておきたい。
 エリクソンは、特定の筋肉の動きを詳細に思い出すという骨の折れる作業にもとづいた回復プログラムに着手した。たとえば、もし焦点が手にあるならば、さまざまなものをつかんだときのことや指を開いたり閉じたりしたときのことを思い出すようにした。彼は、手や指のぴくぴくした動きなどほんのわずかな動きも見逃さないように観察し、成功すると訓練に拍車がかけられた。やがて運動のことを考えることで、自動的に身体の反応を引き出すことができることを見いだした。その後の11ヶ月の間、エリクソンは、小さな動きを発展させることに集中し、それらの動きを身体のあらゆる部分に広げることができるようになった。そして記憶によって引き出された自動的な運動(観念運動)の体験を積み重ねることで、次第に意図的なコントロール再獲得していった。
 細部への観察と注意は、エリクソンの回復にとって不可欠であった。彼は、バランスをとったり歩いたりすることを再学習する上で、一番下の妹がハイハイをしたり、ヨチヨチ歩きをしたりするのを観察したことから大いに助けられた。訓練が進んでいくうち、彼は歩くために力を尽くすと疲れて慢性的な痛みが軽減されることを学んだ。より重要なことに、彼は、同様の痛みの軽減を、ただ歩くことや疲れやリラクセーションについて考えるだけで体験しうることを発見した。”
(『ミルトン・エリクソン その生涯と技法』より)

 この引用した部分は、僕自身もふとしたときに何度も読んできました。催眠とは何かということを見つめ直すきっかけを与えてくれます。催眠を知らない人にとっても、催眠とは人をいたずらにコントロールするものではなく、自らの感覚をより繊細にするためのものであることがわかると思います。その感覚を身につけた分だけ、他人に誘導をする感覚も身につけることができるのです。

 長くなったので今回はこの辺りまで。今度は言葉が暗示として機能するときと、その様子を理解するための感受性について、またエリクソンの後継者として現在活躍しているスティーブン・ギリガンについても書きたいと思います。